火星人データベース

『絶叫師タコグルメと百人の「普通」の男』における火星人表現データベース注)<>内はPanzaによる前後要約や補足です。

1 <八百木の監禁された部屋の椅子は五百万円で>「火星人少女に換算すると、なんでもあり殺人もコミでですねー、丁度百体分のお値段ですよー、はーはーはーはーはー」P27
2 <知感野労は利権や弾圧をほしいままにしながら>他にもいたいけな火星人少女達が買春され搾取された上にまだ納めさせられる国家的ミカジメ料、これなどは「反権力革命協賛カンパ」という名前がついている。P38
3 <少女らは植民星にいるという設定で>盟友にするための少女は火星から買ってくる。人身売買だ。P39
4 <知感野労を批判した野之百合子達は>その結果全員がタコグルメ「批判」団の下部組織に強制入隊させられ、これから一生、或いはこの政権がぶち壊れるその日まで、火星人狩り等の残酷は仕事をさせられ、その罪をきせられるという宣告を受けたのだ。P43
5 可哀相な火星人の少女達も<洗脳を受けている他の少女・女性作家も>全員が<知感野労好みに矯正された八百木の再デビュー作>を暗記させられる。P72
6 <おそらく野之百合子達の歌詞として>幼女フィギュアがざっくざく 火星人だとまた埋める P83 
7 <知感野労政府は>元々から子供の権利条約を批准していなくて<海外の>批難に晒されていたが、最近では火星人の虐待も問題になっていた。P106
8 <この国の女の処遇について金髪女性にお伺いをたて>その後火星人少女を呼んで金髪を接待させる。このような時の金髪はもう火星人少女に大して異様に優しく、その後全員で並んで写真を撮ったりして「一見落着」になる。P106
9 <タコグルメHPは野之百合子達のコンサートの模様を改竄し>火星人と売春婦を差別した歌詞を消し表現の自由に関する最低限の制限だけで人々に「見せて」いると。P113  
10 歌詞の題名も動画の画面では「売春婦殺せ」にわざとなっている、火星人少女を責め、ロリコンに媚びたばか女をやっつけろと叫んでいる内容に改ざんされている。そこへコンサートと交互に植民星(と称せられる所)で火星人狩りをやっているタコグルメ「批判」団の
姿が現れる。しかし百合子も祥瑞も多分まだ火星にまでは行かされていない。というか映像の中の土地も別に火星ではない。P115
11 そもそも火星とか火星人という言葉はタコグ政権で急に発生したもので、ただ現況の火星人少女虐待や火星差別だけがまさに実在するというインチキな概念、だからなのだから。彼らはSFまたは哲学用語をわざと誤用して自分達の失政の言い訳をするのである。P116
12 <「批判」団病院をタコグルメは慰問する>このタコが管轄する病院には<廃人様の百合子?と>売春で体をこわした火星人少女(ほぼ死ぬ)も入院させられるから。P116
13 <タコグルメは以下のように絶叫する>「みなさん僕達はこの可哀相な地球につれてこられた、少女達を保護するために火星人遊廓を作りました。悪い汚い国家権力が彼女達を地球に連れてきてしまったのです。しかし国家権力の悪人達は彼女達にここで無理に売春をさせています。でもそんな中で彼女達はこの売春を僕の提案も受けて建設的にとらえ労働問題学習のために自覚的に行い、そして死んで行くのです。そこで僕達はどうやったらこのような火星人虐待をなくす事が出来るかを研究するフィールドワークの一環としてまたこの少女達と共闘し救うため、今後もこの火星人遊廓に遊客として逗留することにしました。だけどぼくたちは貧乏でおかねが足りません。そこで僕は権力者達に僕達の遊興費を安くするようように提案しているのです」P116
14 火星人が本当は昆虫のような姿をしていて、十七歳までは雌雄同体であり、成人するまでにゆっくり性別が決定され、しかもその性別は自分で選ぶことが出来ないというのがこの国の「医学」の「定説」になっている。同時にまた、この国の人々はその「定説」を一切知らされない。P117
15 遊郭で働かされる火星人少女は地球のアニメ的二次元少女そっくりの例のハイテク着ぐるみを着せられてしまう。一生外に出ることが出来ないのだ。P117
16 この国の少女とは火星人少女の事でもないし地球人少女の事でもない。着ぐるみだけなのだ。P117
17 もともと火星人と呼ばれている人々はどっちにしろ男も女もこの地球スーツと呼ばれる着ぐるみを使わないとここでは生活出来ないが、自分の体に合わせたり取り替えたりして、一見地球人と区別出来ないところにまで適応出来る。P118 
18 最も不幸なのはすべてにおいてロリコンの好みに合わせられ、この国のロリコンイデオロギーの生きた象徴に無理矢理作り込まれてしまう、火星人遊郭の少女達だ。七歳でその性別を無理に決定され、死ぬまで虐待的な着ぐるみの闇で過ごす。P118
19 その上火星人少女には生殖器官はなく、あるのはただ呼吸器官だけ、という設定にこの政権下でな無理にされている。P118
20 知感野労の虐待にあう火星人達はこの「呼吸器官」が傷付いてどんどん死んでいく。P118
21 一方地球の女は生まれた瞬間から一刻一刻値打ちが下がるのだという設定で生きている。決まったコースからはずれると火星行きが待っている。P118
22 知感野労の下働きとして火星人少女の遊郭の遣り手婆になるか、火星人少女の売買、収集を手掛けて(略)以外に生きていく道がない。P118
23 <セント・カメレオン以外の女子生徒も>ガリ勉をし、「反権力闘争」の後方支援のために火星人遊郭のボランティアになったりP122
24 <毒味役として>これおを食べさせられた気の毒な火星人の血液データを持って来て私に見せる。P130
25 火星人遊郭だけが女性の発言権の認められた場所、つまりこの国のイカフェミニズムなのだ。P137
26 <歌詞>火星のフィギュアに化粧して P146
27  舞台の上に火星人が靴を持って上がっているしP146
28 そうかっ!もう火星人じゃないんだ。P146
ここまでは2009/11/03に追加分


だいにっほん、おんたこめいわく史一章

1 みたこの空想的少女愛を、火星人少女遊郭まで作ったペド全開の政府が「反権力闘争」と称して責めてくるP17

2 官憲の火星人狩りP21

3 極端な殺人や自傷を行なっていても、「これは普通のことです」と競っていい募る文化人が大量発生するし、またゲーテ少女愛があったから火星人少女遊郭は普通ですという事になっているしP22

4 このにっほんでは、、政府のしてくる弾圧は全部反権力革命である…火星人少女遊郭での少女虐待も火星反権力闘争である。P24

5 火星人少女遊郭には専属メイドキャラ、準構成員シスターズもいるP26

6 (大権力なのに反権力を自称する者らにも一抹の恥ずかしさはあるから)、彼らはじぶんたちの反権力に、「反権力」とカッコを付けてくる。また火星人少女を殺してしまった時はさすがに少女保護、という言葉にカッコをつけ「少女保護」にする P27

7 火星人少女の「終身保護権」は五万キモヲタ(お金の単位)であるP28

8 海外では既に、このにっほんの最暗黒部である火星人少女遊郭等をおんたこ文化の最先端として憧憬しておりP41

9 この火星人少女遊郭に行った事もないまま、それをオランダの公園で麻薬用の注射針を配っている光景のような、一種の「自己責任的自由」と捉える外国人もいた。一部海外ではとうとう、「反権力」運動として火星人少女遊郭グローバル化を要求するデモまで出てきたの だ。P42



二章

10 (みたこを裏切った青年教師が言うには)例えば火星人にかんしゃくを起こしたり、知り合いの農家の幼女を誘拐したりした時に言うようにしましょう。それもね、「なんでやったらいかんの」という使い方で使うたらええのどす。P57

11 (右畜というものは)右翼のように体を張る事はなく、国辱事件などがあると一斉にいい人になってにこにこしてしまう。その時に傍を火星人でも通りかかればいきなりテレビカメラを呼んでおいて殴りかかるのだ。P69

12 もしも火星人という言葉がついた場合…もし火星人名誉少女、また名誉火星人少女、或いは少女名誉火星人、などという形で、要はどこか一ヶ所にでも火星人という言葉がはさまっていた場合。それはそれは…天国と地獄なんてものじゃない…鬼と地獄の亡者の違いなんですわP88



三章


13 名誉火星人少女にされたものたちはあの中にはいなかった。なんと言っても逮捕されたのは十八九の女性ばかりだったため、もうおんたこの国ではばばーなのであって、その成長ぶりを忌避され蔑まれ嫌がられる事になっていたからである。P92

14 (本人が火星人であり自殺してしまった元みたこ信徒の埴輪木綿助が気にしていたのは)このにっほん、のあり方のそれも最先端を象徴することになっている、あの、火星人遊郭のシステムと現状なのであった。P93

15 火星人少女遊郭、それはおんたこ文化の根源であり頂点なのだ。そしてここさえ訪れればというか報告レポートすれば、おんたこの嫌らしさの感覚的部分は理解出来るのだ。P93

16 世の中には自分が書いていいことと書いて悪い事がある。と笙野は思っていた。火星人少女遊郭というのは無論フィクションなのだけれど、なんか嫌なのであった。P95

17 小説の中にだったら火星人風俗とか、火星人虐待所とか書けばよさそうなものなのに、なぜかふと呪われたように遊郭という言葉を選び出して書いてしまったのだ。火星人の「遊郭」。いるんかこんなもん、冒頭部でここに遊びに来るおんたこを全員タコ殴りしてから処刑しろっ、とまず笙野は思った。が、――おんたこの実態は書かねばならないのだ。P99

18 おたいを見た子供は「火星人が来る」と大声を出して…おたいの顔が、この子には火星人とやらに見えるらしかった。タコの頭で顔に蛸足を生やした、真っ赤の赤ん坊に見えるらしい。…「火星人の友達を集めてくるからもう許して」…「火星人の子供を生んでしまう」と言うて女の子はよく怯えた。P118

19 夜毎大量の魂が飛んでくる。火星人呼ばわりされて怒った古代の魂とかそれに……。P134

20 火星人、といつも笙野は書くものの、火星人がいるのかどうかすら今の(狂って五十年たつ百歳の)笙野にはもう判らない。P136

21 そんな笙野の目に映るのは…燃える輪のような駕籠のような形の中に泣きさけぶ魂が二つ入っている。ひとつは頭にリーゼントのかつらを被った水色のヒトダマである。もうひとつは真っ赤なたこの、ああ、また怒っている、自分の事を「おたい」と言っている火星人が。P138



四章


22 うちども(埴輪木綿助)は首を吊った。しかし労災は適用されなかった。なぜならうちどもは火星人だからであり、そればかりか雇われの下請けの身であったから。P140

23 うちどもが死んでからうちどもの妹は火星人少女遊郭で働けばと言われた。P140

24 火星人は、スポック兄さまのご出身である、バルカン星の方々と同じ位知能が高く、このような理論構築のおかしな低劣な地球人とはとてもやってられん。(木綿助には)その事が判った。P143

25 その上司の言葉は…火星人落語のねたに丁度良いのだった。うちどもでは落語は基本の教養であり、その人の生き方を示す表現手段である。P143

26 ということで、「火星人落語」、「上司の温情」。作及び上演埴輪木綿助。P144

27 (温情ある?上司が言うには)火星人少女遊郭に行くとという事はやね、それはひとつ釜の飯を食うという事なんや。P146

28(同上)ええか、集団登楼はな、戦闘訓練なんや、だから火星人の少女遊郭をな、嫌ったらいかん。排除したらいかん。共に戦うんや。触れ合ってコミュニケーションを取れ。P149

29 火星人落語終わり(ちなみに火星人はストーリーが嫌いなのでこのようなオチのない落語を好むのだよ・ふん)。P160

30 火星人の凄いのはどんな時でも、自分が殺されても復讐する時でも笑いを忘れない事だ、とこの国の地球人は勝手によく言う。P161

31 がんがん火星人落語をやった…その木綿助でさえも…もっとも恐れる地獄の光景である。火星人さえも黙ってしまう程の。P162

32(底無し沼を埋め立てて遊郭を作った時)ごまかしたお金はどこに行ったのか。それはこの火星人少女遊郭で使っております。そういうわけで建物を一歩出れば殆ど底無し沼、少女は逃げられない。P162

33 みたこ学徒やその家族の中から名誉火星人少女の身分にされるものが多く出たのである。P164

34 さて、第一章で火星人少女の「終身保護」「五万キモヲタ」と作者は書いたのだが、この名誉火星人の場合は安いのである。どうしてかというと、火星人少女は建前自主戦闘(無論、嘘です)だが、名誉火星人の場合矯正訓練だからである…地球スーツ代かからないし。

35 遊郭は全部少女たちがおんたことの共闘のために自主的に作ったという設定になっている…しかし本当はひっえひえに冷笑する火星人少女(火星人少女は辛い時程冷静でよく笑い。火星人落語もよく聞くのだ、と地球人は勝手に言うのだけれどもね)たちを閉じ込めておいてP166

36 ああひどいなあ、しかしこれが戦闘遊郭火星人美少女隊の戦闘訓練だ。P167

37 この寒稽古中の人々が(殆ど全員が子供である)名誉火星人少女なのだ。…ただの火星人少女よりもまだひどい目に会うという、最底辺、名誉火星人少女なのだ。P168

38 ずっと徹夜。昼間はこのおんたこにっほん特有のイカフェミニズムというのを学習させられている。

…この名誉火星人少女たちは朝は四時から伊加女史のライフワークである「ロリペド区別・責任論争」とか「非在としての幼女。その経済効率」という分厚い本や資料の整理をさせられたりP169

39 この少女たちはまた、おフランス女性が遊郭見物共闘に来ると、花を活けたり茶の湯をして見せたり、また舞台に立たされて本物の火星人少女たちからの糾弾(双方どっちらけ)を受け、戦闘訓練でおんたこの好む遣り方の女史プロレスをさせられる。P170

40 他にもこの古墳の主のおんたこ鎮魂のため、火星人少女のフィギュアがぐるりと立て巡らしてある。P176



五章

41(おんたこの要人)三人は大量検挙された名誉火星人少女たちの外見を偏差値で評価している最中であった。

42 入って右手の舞台ではヌイグルミショーのようなシルエットの踊る集団がいる。これが木綿助がもっとも気の毒と言っていた火星人少女である。

43 火星人というものの正体を実は火星人も火星人の親も知らないのだった。生まれてすぐに親の手で赤ん坊型の地球スーツを着せられる。大体拒否反応はなく、そのまま育つのだ。どうしてかというとそれは非専門家形の高級スーツだから。そこからスーツと一体化して様々な顔に成長していく。但し第一の試練は七歳の時で、性別が決まる。ここで第一回のスーツ着替えになる。高級品はそこから一生保つ。でも安いのは次々替えていく。もしこの時に性別が決まらないものは火星に帰ったり治療を受けたりする。P190

44 しかしこの遊郭では少女だけを働かせているため七歳以前に、子供の体から絶対に育たないスーツを着せる。スーツというよりは着ぐるみのようなものであって通常の地球スーツと違うのは素材も何もおんたこの好きな触覚や形にしてあるため、火星人にひどい苦痛を与える事である。まず育たない。それに若さを重視して七歳までに閉じ込めてしまい、絶対に脱がせないために、中で男性と判るのもいるし、そもそも女性になったってひどい事ばかりだし、どっちにしろ苦しみながら早死にして行くのだP190

45 またおんたこの好みを優先したせいで外見も普通の地球スーツとは違う。普通のなら地球人と同じような動作もできるし改造も出来るし、地球そっくりの姿でも、また火星人理想形と言われているモデルにでも成形出来るのだ。が――。舞台で踊っているのは体長二メートル四頭身の巨大童女である。…拒否反応を起こして縦も横も腫れてしまうのだ。巨大にはなるが、これで幼児体型は維持できるし。第二次性徴も抑えられる。P191

46 ヌイグルミのようなロボットでも作って火星人を解放してやれよ、というのはみたこの考えだ。おんたこたちは他者の存在と理解を求めていて、そのためにこのような非現実的少女の中にも人権のある知的生命体が入っている事を求めるのだった。P192

47 火星の少女は反権力なので、地球の名誉少年たちに性の指導をし反権力も教えて共闘するという建前になっている。P192

48そして名誉火星人少女は反権力を身につけるために火星人少女の下位に置かれるのだ。P192

49 さらに名誉火星人少女がしばしば逃亡すると、矯正不可能とされて、沼際に捨てられる。人権がなくなるのだ。P192

50 普段のおんたこは火星人少女に触りながら、例えばブログの知的美少女美ガ原キレ子のようなIQが高く哲学書を読んでいる令嬢とチャットしたりP192

51 この時も「火星人本体には手を出していない。着てる地球スーツをかまっているだけだ」とおんたこは言う。しかし多くの火星人少女はそれで本体の呼吸器を害され、また精神的に苦しむ。P192

52 こうして火星人少女とネット知的美少女にはさまれたおんたこをまた。夫人と妹キャラが…盛り上げ…楽しませる。これが火星人少女遊郭でもっとも金のかかる遊びなのだ。P193

53 左畜制作委員会委員長はぶよぶよの姿に某古典的アニメのコスプレをした火星人少女と、うっはうはで記念写真を撮っているしP193

54 出里田誤用之介は「エロゲーで自家発電する事の背徳性」を徹底糾弾しながら名誉火星人少女の点数を付けながら財布から三万キモヲタを出して数えているし。P193

55 名誉火星人少女たちの手で大きな水槽が運び込まれて来た。P193

56 タコグルメはいきなり目の前の生首の水槽を蹴った。この左畜め、弱者みたこを裏切ったな。僕はこいつの裏切りと戦うぞと、…火星人少女の舞台に駆け上がった。見事に「反権力」が成立したのだった。P196

57 名誉火星人少女が「まったく偶然に」一名逃げたという報告が入った。等間舵郎がえっえっえっえっと笑いながら、人権喪失物貰い受け手続きの書類を揃えP196




だいにっほん、ろんちくおげれつ記

58 本は蘇ってきた人々が肉声で語り、死者の声で作った史書であった。…殆ど全部が語り物の口調で書かれており…無論まだぺらぺらの第一巻で、いぶきが受け持ったのは火星人のパート、当然自分史である。P10

59 この歴史を作るための勉強会でいぶきは自分達の家族について語り、火星人の歴史というパートの中心になっていた。P11

60 無論、兄の木綿助もその語りに加わる予定である。兄は素人ながらなかなか聞かせる火星人落語の語り手であるので期待されている。しかし本の順序やページ数は妹のいぶきの方が優先されていた。というのも、おんたこ政権のもっとも醜悪な場所、火星人少女遊郭の関連からいぶきは歴史を語る事が出来るからだ。人民にとってはそこが大切だ。P11

61 生前忍耐の訓練をしていたせいで、いぶきの表面的な我慢強さは前と変わらない。でも死んでからは隠れている部分の気がまた一層荒くなった。冷静なはずの火星人がと、地球人の死者に言われてむかっとする。何が判るんだと自分達の家庭を思う。P27

62 十八歳で死んだいぶきは自殺した火星人埴輪木綿助の妹である。兄と違っていぶきは他殺だった。P27

63 おんたこの世で輸出経済の主役はロリコンのアートである。というか「アート」と言ったらロリ物である。また、そういうものでも外国や植民星の労働者が安く作ってしまうようになったせいで、デザイナー以外は商売にならなくなっていた。最近では就職というと、おんたこの政府関係か火星人遊郭の職員かロリ輸出「アート」関連がメインである。P38

64 いぶきは遊郭で働くのは嫌だったが、結局、面接を受けにいった。面接と言っても職員である掃除や洗濯は名誉火星人の身分に落とされた地球人の元みたこ少女達がこきつかわれているからP38

65 大きい子たち(傍点)、大きい姿が火星人遊郭の少女でその成長が病的スーツの拒否反応のせいだという事も、この婦人は知らない。多分遊郭なんて、外の女から見たらそんなものなのだ。P60

66 〈木綿助といぶきの〉兄と妹でここまで仲が悪いとはすごい、と親戚は呆れていた。 冷静な火星人とはとても思えない、とよく言われたが、火星人が冷静なのは実は外面だけだ。家族関係は物凄いのだ。そして自分で冷静だと思い込んでいる火星人とは家庭内で自分が何をしているかを完全に忘れ、外だけを意識して都合よく行き、外面だけで発言している火星人の男だけだ。 まあ、でもこの都合よいという感じ方はいぶきの兄に悪意なのかもしれない。P62



67 〈いぶきは蘇りの目的もはっきりしていない。…どうしたいかよく判らず、常にカッとする〉一方火星人遊郭で死んだ子は死後の目的がはっきりしているので、古墳に住まっていちいち友達を作ったりしてはいない。さっさとするべき事を済ませて帰天するのが多い。P70

68 〈おんたこは〉まず、人間の信仰心を計る単位(傍点)を定める。これがカネコネである。次に一カネコネ(祈りの単位、例えば初詣が一カネコネ、名誉少女試験の合格祝いが五カネコネ、そして火星人遊郭帰りの懺悔参りが嘘八百カネコネである)についてどれだけの賽銭(単位は言うまでもなくキモヲタである)を信者が上げるかの数量比較をして、神社ランクを決める。P78

69 西洋哲学誤用の好きなおんたこは必ずこう言ってくる。 ギリシャの巫女は元々売春をしていた。要するにもう個人の信仰なんか消したいのである。一方おんたこの許す個人信仰というと、火星人遊郭の少女を成仏させるための成仏券というものがおんたこ政府の下部組織(民間)で販売されているだけで、それはギリシャの宗教と西洋の哲学を合体せた教義になっている。P81

70 〈この成仏券を買っておくと遊郭では相当な残忍行為でも許される事になっている。うっかり買い忘れて「あっ、ちょっと反権力が過ぎましたすいません」というようになった時は、後だしジャン券というのを百万キモヲタで買う、それは成仏券もついてお得なばかりか、おんたこは一切咎められる事はなく〉稲荷山古墳は、ロリコン埴輪が人気を取ったことがひとつ、そして火星人遊郭が近くて、さすがに罪悪感ででっこでこになった初心者がお金を落としていくため、…生き延びていた。P82

71 遊郭の火星人少女達は大きいけれど、花魁の巨大な重い下駄や、分厚い仕掛けを着せられているのと同じ事で、うまく動けない。というか七歳用のスーツを七歳前に着せていくら育っても取り替えられなくしているのだから、纏足(てんそく)に足枷まで付けて生活させられているようなものなのである。蘇えってからもずっとそのままの姿でいるしかないのは、それ以外の姿を知らないからだ。P85

72 〈火星人遊郭少女は うぴ♡♡♡むにゅ という風にしか喋れないが、それは〉火星人遊郭の里言葉らしい。七歳で閉じ込められては言葉の種類も限られるのだろうか。おんたこのカンに障らない母性的で柔らかい単語だけを使うという事だが。でもいぶきには結局一語も聞き取れない。P87



73 仮におんたこの肉体が都心とかビルの外に出たとしても、おんたこの魂は決して外に出ない。だから中央の偉い人がもし地方で「反権力侮辱」の場面を見ても、むしろ、何も感じない。見えない。すぐ忘れる。そもそも連中が地方に出るのは郊外の火星人遊郭への「視察」だけだし。P98

74 要するにおんたこにとって地方というのはイコール火星人遊郭である。火星人遊郭だけは郊外の、それも地方の生活とも切り離された、田舎にしても人気のない場所にぽつんと置いてある。無論そこでの芸能は都心で流行させられるが、テレビで…着ぐるみのの中で死んでいく少女の苦しむ状態を、「切ないパフォーマンス」にしてより抜きの美少女が演ずるのである。P100

75 遊郭での虐待は…匿名掲示板に出るものの…「手違い」でスレッド全部がふいに削除される。P100

76 あるいは火星人闘争の活動家達が書き込みするのを煽っておいて、一斉に検挙する。P100

77 おんたこの目から見た地方とは密室の外にただ火星人遊郭が点在しているだけの荒野なのだ。P100

78 というかダンスだけではお金がとれないようなぱっとしない火星人の女の子に、画一化したスーツを着せて虐待する場所なのだ。P101

79 生まれつきの火星人ばかりではない、みたこ教から火星人より下の名誉火星人に落とされた地球少女達などは殺す事も想定して、沼際に住まわせておく。P101



80 ――お進みください! お進みください! 火星人死者の方、まず志願者の方は美少女フィギュアを右手にのせ、左手にヒョウイ希望書をご用意ください。P108

81 まるでウラミズモがみたこをのっとるかのようだ。 その上百合子に似た講師は確かこうも言ったのだ。それは火星人遊郭からのフィギュア入り志願者の集まった時で、神話の中にやたら人形の話が出てきたのだった。…それこそ人形教のような。P109

82 人形に蘇りの死者が入って、おんたこを殺すとは、あさか思っていない。それはまさに麻薬だった。火星人少女の巨大化はどれだけ予算を食わせても止める事ができない。それなのに、魂の入ったフィギュアはティンカーベルそのままだ。P124

83 いぶきが着ているのはどうみても遊郭用のスーツではない。特注の地球一般仕様の高級スーツである。その上、身長はむしろ小さいほうだし、「どう見たって火星人に見えるはずはない」。P126

84 〈江戸期に遊郭にいて死んでからはごんげんに保護されていた〉浄泥は同じ遊郭なら権現がいるだろうと短絡して、火星人遊郭に入っていったのだ。P134

85 〈蘇りの死者の〉集会はもう始まっていた。木綿助が得意の火星人落語ではなく、ただ百合子の消息を発表する役回りをする。P140

86 いぶきはうんざりした。この後火星人漫才もあるのでそれには引かれるのだが、やはり笙野の授業の方に出る事にした。P147

87 だいにっほん政権下で、この女性の寿命の数値を下げているものは実は幼女、少女のあまりにも人為的な夭折のせいだからである。火星人少女遊郭で働く少女が苦役を終える年齢はほぼ十八歳、P157



88 〈自分の受けたおんたこ迷惑を語る練習をしているいぶきは〉地球人が火星人に先入観をもっている、おんたこがどうとか言う前についそこを語る。P192

89 ――うちども、埴輪いぶきは、父が火星人埴輪木綿造、母は埴輪あゆむ、兄は木綿助、四人家族でした。宗教はありません。ということは無宗教ではなく、本来はこのだいにっほん国の、おんたこ愚民になるはざの運命でした。P194

90 いぶきは子供の頃から、火星人の女の子はませているおとなっぽいと言われる事が不快でした。P194

91 いぶきの父は火星人落語中興の祖です。…火星人落語が地球とちがう所は、笑えないものを無理に笑うところです。P194

92 でも俺は自分で火星、火星と言っているけどその割りに火星とは何か判りません。そもそも火星人という言葉が変ではないですか。俺は、いぶきは火星に行った事がない。火星から本当に来たり火星からここに住み着いた人は、にっほんの籍に入った人もそうでない人も別に火星人とかいちいち言いません。だいたい俺の先祖の墓はずっと地球です。そもそも月ロケットさえなかった時代から地球にいたうちどもが、どうして火星人ということになっているのでしょう。P194

93 いぶきは子供の頃父の後を継ぎたいと思いました。しかし火星人の世界も男尊女卑です。また火星人落語は普通世襲をしません。素人的なところから出るのが一番好まれるのです。…地球の落語と違い、笑うに笑えぬところだけを悲惨に笑うという思想があるからです。…兄はなんでもすらすら語ってしまうので上達は早いものの、火星人の魂が入った落語は出来なかったのです。火星人落語でもっとも難しいのは自分を虐待した人間の鈍感さをその人物になりきって演ずる事でした。P195

94 地球スーツの事でうちどもだけですが内々に噂している事があります。実は火星人はスーツなしで暮らせるのだと、しかしおんたこは火星人を支配するため、火星人に自分の肉体を自分のものだと感じさせないため、またおんたこの罪悪感を軽減させるためにこれを着せているという事でした。元々火星の女性というものはなく、ただ女性を美人とブスに分け、ブスの顔を隠すために着ぐるみを着せたという話もあります。P196

95 火星人という制度をわざと作って違う文化を押しつけたのだから、火星の文化に意味はないとおんたこは言ってきます。しかし元々からのが殆どです。しかし抵抗する事にその文化を使って来たのだからもう落語もうちどものものだと思います。というか、落語がもうかっているとおんたこが教えたと言ってくるのです。P196



にゃん公君が主人公の短編のような後書き

96 にゃん公がこの前買った『だいにっほん、おんたこめいわく史』だって火星人が猫と似ていると思いながらも気に入らない部分は人間観察として読んでいるのである。P216



だいにっほん、ろりりべしんでけ録


第一章 火星人少女文学(二次元文学)つまりおんたこ文学 

97 物事を単純化して考えるが故に、支配のからくりを隠してくれるような、そういう評論家が隆盛を極めた。二十世紀までだけでも、どんなに劣化したか、作者は第二部で既にのべてある。しかし二十一世紀を越えるとさらにもっと無残な、二次元現象が世を覆いはじめた。これはおんたこ芸能文化の中心となる火星人少女遊郭において、最も大きな被害を巻き起こした。P30

98 おんたこ世界におけるこの二次元評論のもっとも大きな「功績」は少女の二次元化、脱人間化、商品化であった。そんな〈二次元文学〉は…恐ろしいことに火星人少女、それも遊郭の〈売り上げが一番の〉いわゆるお職を張っているような少女の手で書かれるものも多かった。しかしそのお職さえも本物の二次元つまりバーチャルネット内少女美ガ原キレ子などのはるか下位に置かれていた。P31

99 そして、――。 末期、二次元文学はとうとう林芙美子佐多稲子のパクリリライトまで始めていたのである。作者の一番の悔いはやはりこんな遊郭に係わった登場人物のひとりを、とうとう救えないでおわってしまった事だ。それで遊郭内を中心に形成される、この火星人少女文学、正式名称二次元文学について、ここで、墓碑銘代わりに書いている。救えなかった彼女はその書き手だったから。P32

100 このインチキ文学の大変なところは…〈あどけない身振りで深遠な哲学を、食べ物観光セックス彼(即客)出産、だけを使ってできるだけ平明に平凡にだらしなく書かねばならず〉ロリコン行為は全部「きよらにすがすがしい」で統一描写した。このためまともな内面独白は絶対出来ず、それが一行でもあると没になった。しかもひらひらの星菫派で哲学しようとする事を火星人の少女は禁じられた。P33

101 それがおんたこの求める「ジェンダーフリー」…セクサロイドであり、他者性を持たぬセフレ商品なのだ。めんどくさくない、気を使わなくてもいい売春少女、それが火星の女の子に与えられた役どころだった。P33

102 そんな遊郭、二次元文学における火星人主人公の仮想敵は楼主でも変態でもなく、常に一般社会のばばあどもで、少女たちは家族にトラウマがあるという設定になっていてそれは家出で孤立させた肉体を性ファンタジーに使うのに都合いいからだった。p34



103 実際遊郭の火星人少女達の生活は大変なのでそのハードさを描くディティールには事欠かない。〈その原因は伏せておいて、女の子同士の中にに仮想敵を発生させ、体の痛みや寝不足もセックスアピール中心に、着ぐるみ越しの性交は延々と強調され、少女は楽しんでおり「自分は多情だ」などとさらっと言い、理不尽さを隠すために思想書のインチキ引用をする…という現実遊離ぶりであるし〉P35

104 〈また少女の出産シーンは見せどころで猟奇とエロを交錯させつつ…おんなのからだのたくましさ…にぶい愛情にひたひたになり…おひめさまぶりっこからそつぎょうよ…などと「幼い母性」を美化しながらも中絶は「自然に反するから残酷」だとして生まれた子は崖からぶん投げるのに〉それらを実際に書いているのが火星人少女遊郭で働く少女自身なのでどんな嘘を書かせられてもそこにリアリティがあるという事になってしまう。P36

105 〈これは本物の少女の啓蒙のために書かれ「同世代に届く判りやすい本音」だけを売買するため〉十八歳が上限のこの遊郭を「卒業」(仕事を引く事をここではこう呼んでいる)して後、火星人はこの二次元小説を書く事を禁じられている(但しおんたこの奥方は勝手に書ける)。P37

106 〈遊郭の客は数倍年の多いおんたこ、だが脳内彼氏的に都合のよい若い男〉に例えば携帯電話を一回貸してもらっただけで、天下の火星人遊郭でお職を張っている太夫様が恋に落ちるのだ。P38

107 〈そんな文学を書くことが本人の売り上げになるからだ。〉

これは「心を二次元に、十五歳勤務、千五百人の彼」という火星人遊郭文学の代表作からほぼ定型の終わり方になっている。P39

108 〈主人公が男なら〉火星人少女を殺してしまい「生命の大切さに目覚めて」少しおとなになる。というか、――。 後期遊郭文学はほぼリライトのみで、その理由は無論「少女に個性も意味もない」というおんたこの理論からである。P39 

109 中には男の主人公が自分の母親を殺してしまい、火星人少女が身代わりになってくれるというものもある。P40

第二章 

第三章 蘇る死者の状況

110 やはりみたこ信者と少女が圧倒的である。火星人少女は地元の出身でないものの方が多く入れ代わりも激しい。p126



第四章 いぶきは落語を語る  ・〈黄レンジャー八百木が気がかりな少女作家美緒里は〉…文体の暴力性の矯正を強要され、「永田洋子」のような犯罪者

にならぬよう、おんたこ好みの少女趣味で抑圧されている。それは火星人遊郭の少女とはまったく別のタイプの少女趣味だ。…美緒里は幼い母性キャラに、奇形化されようとしているのだ。P131

110 〈ウラミズモのにっほんへのロリコンデータが輸出停止になったのはモラルからではなく〉だいにっほんが論畜の「活躍」により、ロリコンの供給先を火星に求め、P136

112 さらに火星開発以後は一層需要も少なくなりP136

113 ロリコンデータの値段をウラミズモが下げないのは、データを提供した少女の一生を贅沢に送らせるためなのだが、火星人遊郭さえ「売春ではない」という事にするおんたこの「手腕」によりその点でウラミズモは「高くてニーズのない使えない国」になっていたのである。P137

114 〈いぶきは〉特注の一生物のスーツを天才落語家の父に誂えてもらい、どんなに貧乏してもそれを売らなかった。P151

115 〈生前の記憶を生き直しているいぶきは遊郭職員の女の話を聞いている。〉

「狭い身内意識」や「徒党」の中で物を言ってるところが火星人(傍点)のいくない「権威主義」だお。ここは「フェア」なところだからあたも「フェア」になってねwww。火星人と言われていぶきはびくっとした。P155

116 〈その女が微笑みつつ母親が娘の支度を見てやるように背中をすっとなでた時いぶきは声を聞く〉それはいぶきの、自分の声だった。語りだった。しかも普段の自分とは思えない冷静で冷たい、普段よりずっといい調子の、火星人落語の語りだった。P156

117 火星人落語は笑えないところ、ぎりぎりまでを冷静に語り、同時に語り手と対象物との関係において大変高いモラルを要求する。P156

118 〈いぶきは自分の声がなぜ外から聞こえるのか判らなかったが、その口調が変わったとき「神」になっていた。〉「自分をひどい目に遭わせた人間の真似をしながら、淡々と語って人を笑わせる」という火星人落語の究極芸だった。「最高峰取って食う芸」である。P164

119 〈その時変化があった。嫌な男の声がいぶきの「現在」を語り始めた。そこに落語はなく死者の記憶の時間もなく、おんたこの世の現実が流れ、いぶきは美人になり〉誰ももう君を火星人とは思わない。…そうそう火星人とは何かを今教えよう。それはただ歴史を奪われたものだという事だよ。火星人神話なんかない。君はこれでだいにっほん史の中に戻って来たんだよ。こうして正しい歴史に君は回帰した。P167

120 俺は(声が戻っていた、いぶきの声)、〈レンジャーの戦いを語り〉そしてもうひとつ言うと、最後に俺が遊郭の中で見た景色は一番ひどいものでした。…すべての財産を遊郭に帰属させるのだ。この時に女の子の着ぐるみも返させる。それが卒業式です。…でも今までその中にいて暮らして来たのにそこから出されれば地球の大気です。火星人は死んでしまう。即死です。そこには合法的殺人の快感があるそうです。P171

121 〈残った人間形の着ぐるみをおんたこは食べる。食われたのはよく売れた二次元文学の書き手だった。〉これが火星人か、と俺は自分でおどろきました。彼女の体中の言葉は感情や欲望や自己語りや論理が全部潰れて、イカ墨の粘ったもののようになっていました。P172

122 でも、食べられた女の子の本体はもう火星人の形さえしていないので帰天する事も蘇る事もないだろうと〈緑の人〉は言っていた。P172

123 いつか火星人神話に挑戦してみます。火星人などない、とおんたこは言ったけど。P173

第五章

第六章 ばらばらな火星人神話 火星的団結それは習合?

124 いぶきは方位蛙の隣に立って語っていた。いつもこうして語る事はみたこの基本だった。 中でも一番大切な語りにいぶきは入っていた。 それは火星人神話についてだった。どこにあるとも判らないと言われながらこれを語るものは火星人落語史の頂点に立つと言われている火星人神話。そしていぶきは。神話自体ではなくその正体を今、語ろうとしていた。 ――火星人というのは、――。

125 そしてその時にいぶきは火星とは何かが判ったのだそうだ。P221

126 〈いぶきは語る〉 ――火星人とは歴史を奪われた人のことだと、おんたこは言いました。だから火星人などいない。火星人は地球人と何ら差はないのだと。なぜなら地球人の中にこそ火星から来たものがいるのだからと。 大きく言えば、地球の歴史は火星の歴史でもあるという事でした。そしてうちどもにはもともと地球人であったものもいるそうです。そういえばそもそも火星になんて誰も行った事がない。それでもうちどもは火星人なのだ。 ひとつ社会の中で暮らしている人間からそこでかつて暮らしていたという痕跡を奪い、そうして作られたものが火星人という神話なのだ、とあいつは言ったのです。だからそれは火星人神話ではなくて火星人という神話に過ぎない。火星人などいない、と、そして笑いました。P221

127 俺は笑い返す。実は俺は自分はもう帰天しようかと思います。この国のからくりを自分の命をもって知ったから、それをうちどもの皆様に今伝えたのでもう俺の義務は終わりです。おれはみたこ天国に行って火星人落語を習いたいです。それに俺達は生きた人間と違い物語の登場人物だ。だから天国に行っても必要があれば名前を変えてでも戻って来られるのだ。それで俺はここに火星人神話の手がかりだけを残していきます。

128 まず、――。 火星に歴史がないとしても、火星人はいないという事はない。それが大切な神話への道です。また火星人とそう呼ばれた名を叩き返す事も火星人の証拠です。同時に火星人だと認めてやれば相手が困るときにそう言ってやるのも、俺たちの自由で、その時に俺たちは火星人です。そして火星人にされた人はひとりひとり、おんたこのいばって作った王道のおんたこ史を書き換えてやればいい。迷惑を受けたものはめいわく史を書けばいい。おげれつに悩んだものはおげれつ記を書けばいい、死んでけと思ったものはしんでけ録を書けばいい。その中に共通の言葉があれば、俺たちは火星人でなくとも火星的団結をしているのだ。それが俺たちのばらばらな火星人神話です。それにもしかしたら本当に火星の歴史があってそれをおんたこが隠しているだけかもしれないのだ。だったらそれも掘り起こす。火星人言われれば言われる程昔の話や自分がやられた事を書き残せばいい。P222

129 俺は自分のパーツをさっき語りました。自分が死んだ事をおんたこの声も演じて残したのです。これが俺の神話です。だけど俺と似たような女がいたとしたら俺の話はそこに習合してしまうかもしれない。そうして人間の悔しさや祈りが集まった時、その魂の集まりも権現です。そしてその魂の物語は神話や説話になる。権力者が書き換えないように伝えればいい。俺がしたようにみんな語ってください。神話はみんなで集まって時間を遡って作るものだ。おんたこにだけ勝手に捏造されたくない。それは俺達の死者の声です。そしてもう一度生まれ変わったら俺は師匠、埴輪木綿造を襲名します。P223

130 いぶきは今、あれだけ否定した笙野理論の用語を単語だけ勝手に使い自己流で喋っていた。しかし授業で習ったのだとは忘れていた。そして火星人落語で襲名なんか普通しないだろ、とは誰もいわなかった。言えなかった。P223

131 天使の千の手を背中に背負って、広場に降り立ったグリーンスネークは確かに神の遣いのように見えた。…というよりいぶきが無事に戻ってきて、火星人神話というまったく未踏のものを自分達と関連付けたので、正気でいる死者達や最後まで活動家として側に来てくれる生者達は希望を持ったのだ。P224